Aさんは40代の女性で、うつ病とアルコール依存症の既往があり、1週間前から食事が取れない状態となり入院した。Aさんには、数か月前に実父が突然死したこと、飼い猫が亡くなったことでアルコールを多飲するようになった、という背景があった。
入院時のAさんは心身ともにつらく、落ち込んでいるように見えた。私には、少しでもAさんが安楽に入院生活を送るために、看護師として何ができるだろうか、もっと声をかけたい、という気持ちと、話を聴いてもどのような言葉を返せばよいのか、という不安な気持ちとの葛藤があった。
入院当日のAさんは吐き気が強く、話しかけることができなかったが、数日後に夜勤で担当することになった。Aさんの点滴を更新するために訪室すると、深夜0時を過ぎていたが、Aさんは眠れずに起きていた。わたしは体調が落ちついていることを見はからい、声をかけてみた。最初は少し世間話をしていたが、次第に父親が亡くなったときのことを、辛そうな表情で語りはじめた。
わたしは、Aさんの表情や言葉の変化を観察し、その時のAさんの思いになるべく共感し、相槌をうちながら傾聴することを心がけた。話の最後にAさんから「話を聴いてくれてありがとう。少し気持ちが楽になりました。」と言っていただいた。業務のために訪室したタイミングであったが、Aさんの世間話に足を止め、会話に応じたことが、Aさんの語りにつながったのではないかと思う。また、私は、看護師としてAさんにかかわること、踏み込むことの不安よりも患者さんの思いを傾聴したいという看護観を優先できたのだと思う。
この経験を通して、患者さんの思いを傾聴するときに、どのような言葉をかけるのかということが重要なのではなく、患者さんが語ることをありのまま受け止め、傍にいることが大切だということに改めて気がついた。
看護師として2年目となり、日ごろの業務に追われて患者さんの思いに耳を傾けることが難しいこともあるが、常に患者さんの思いを聴くことのできる看護師でありたい。