入院してきたのは小さな男の子でした。重篤な状態で集中治療が必要となり、呼吸管理が開始されるなど、厳しい状態が続いていました。ご両親は毎日の限られた面会時間の中で、懸命に子どもに話しかけ、頭をなでたり、体に触れたりしていました。ご家族のつらそうな姿をみると、私はうまく声をかけられず、要望を聞き出せないという葛藤を抱えていました。ご両親は子供に何かしたいことがあるはずなのに、私に何ができるだろう、と考えました。
その後、先輩看護師と話し合い、言葉にできないご両親の思いを引き出すために「ICUダイアリー」を提案しました。ICUダイアリーは、看護師が日々の状態を記載することで、ご両親がお子さんと会えない時間も共有するために始めたものです。
ご両親にダイアリーについて説明し、その日の思いや、何かしたいことがあれば記載してもらうようにしました。毎日面会に来たとき、ダイアリーを読んで、離れている間の様子を知って笑顔になり、安心している様子がありました。また、ご両親が毎日メッセージを書いてくれるだけでなく、次第に「髪を洗ってあげたい」や「他の家族に会わせてあげたい」といった要望も記載してくれるようになりました。一緒にケアできた時のご両親の満足した表情は忘れられません。会話のきっかけにもなり、やり取りを重ねるごとに、ご両親からもいろいろ質問していただけるようになりました。
1日1ページずつ記録が増えるICUダイアリーを見て、毎日のやり取りの積み重ねが、ご両親との信頼関係作りに繋がったと実感しました。ICUダイアリーをご両親にお渡したときには、「ありがとうございます。宝物です。本当に救われました。」と感謝の言葉を頂きました。
この経験から、患者さんの家族も大切にしたい、という自分の看護観が明確になり、看護の力を信じて毎日努力を続け成長したいと思えました。
私にとって、この出会いはかけがえのない「宝物」です。