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南宇和病院『忘れられない看取り』

 30年近く前の経験だが、鮮明に記憶に残っている出来事がある。


 その日、日勤業務に出た私は深夜勤務者より「〇〇さん、もうダメみたい。先生が家族に説明して、家族もみんな病室にいます」との申し送りを受けた。主治医は「最期の時を家族でゆっくり過ごさせてあげたい、詰め所でモニターを見ているから、なるべく病室には入らないように」と言われた。


 その日の担当となった私が病室に入ると「もうだめみたいですね、声をかけても返事してくれなくなって」とさみしそうに言われた。「反応が無くてもこちらの声は届いていますよ」と声をかけると優しい声で「おばあちゃん、ありがとうね」と家族が声をかけていた。


 数時間後、患者さんが亡くなり、死後の処置をする時、私は娘さんに「これからお身体をきれいにしますが、一緒に拭きますか?」と声をかけた。娘さんは、泣きながら「良いのですか?看護師さんの邪魔になりませんか?」と返事された。してあげたいけれど、病院で死んでしまった場合は看護師さんにしてもらうのが決まりだと周囲から聞いて、出来ないと思っていた、と話してくれた。


 その後、背中だけでも拭いてあげて、と娘さんが自分の夫と息子を呼び入れ「おばあちゃん、ありがとう」と涙を流しながら家族で体を拭いていた。寝衣を着せて整えた後「看護師さんありがとう、良い最期やったと思います。好きな看護師さんに看取ってもらえて」と言って頂いた。朝の環境整備の際の何気ない会話から、私と会うのを楽しみにしていたと聞き、自分自身も看取ることが出来て良かったと感じた。


 看護師4年目、これから看護師としてやっていけるのだろうかと不安を感じていた私にとって、この経験は、自分の行動を承認してもらい自信をもらった出来事だった。失敗して落ち込んだ時には、この場面を思い出し、いまだに元気をもらっている。あの時の自分よりは、少しは自分も成長出来ているのではないかと期待しつつ、まだ看護師を続けている。

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